「心地よさに包まれる、日だまりのような空間に」
福井市「ひなた女性クリニック」知野陽子医師インタビュー。
ダークグリーンのガルバニウムの外壁と木目のコントラストが印象的な、福井市東森田の「ひなた女性クリニック」。施主で医師の知野陽子さんに、ご依頼からクリニック完成までの経緯や、現在の所感について伺いました。

誰もが和める空間を
可能性が広がるクリニックのデザイン。
開業への想いと、建築家との出会い
⚫︎ご自身のクリニックを持とうと決められた経緯と、弊社にご依頼いただいたきっかけを教えていただけますか?
近年、子宮頸がんに罹患する患者の若年化が進んでいて、婦人科検診のハードルを下げる必要があると考えていました。以前勤務していた病院では、担当医が女性になった途端、患者数が倍に増えたことがあり、近くに女性の婦人科医がいる環境がもっと必要なのではないかと感じていたんです。そこで50歳になることを節目に、独立・開業を決めました。hplusさんの事務所は息子の通っていた保育園の近くにあり、前を通るたびになんて素敵な建物だろうと、ずっと憧れの気持ちで眺めていたんです。今回クリニックを建てるにあたり、調べてみると、hplusさんがメディカルクリニックも手掛けていることを知り、迷うことなく無料相談会に申し込ませていただきました。

カフェのような、温かみのあるクリニックを目指して
⚫︎ありがとうございます。最初に思い描かれていたクリニックのイメージとは、どのようなものだったのでしょうか。
とにかく「病院」というパブリックイメージを取り払いたかったんです。誰もが気軽に来れるような、カフェのような温かみのある空間にしたいなと考えていました。婦人科はどうしても足を運ぶことにナーバスになりやすい場ですので、少しでも患者さんの気持ちを和らげられたらと。hplusさん特色である木の温かみを活かした設計は、そんな想いが叶う建物になるのではないかと感じました。
対話を重ねながら、理想を形に
⚫︎実際にご相談されていかがでしたか?
医療機器卸の株式会社ミタスさんが間に入ってくださり、事務所での打ち合わせが始まりました。今まで自宅を建てた経験もあったのですが、その際の打ち合わせは3~4回程度。でも今回は伊藤さんが用意されたヒアリングシートに沿って、細部に至るまで要望を聞いていただけました。その後、段階を追って打ち合わせを重ね、村中さんともども真摯にご対応いただけました。建築の世界は知らないことだらけですから、その都度丁寧に説明していただけたのは助かりました。特に敷地面積や廊下の幅など、クリニック独自の規定があることを教えてもらえたのは、ありがたかったですね。
スタッフや患者さんにもやさしい動線設計
⚫︎打ち合わせが始まってから、印象に残っていることや、新しい提案などはありましたか?
私だけではなく、スタッフみんなが働きやすい空間にしたかったので、当初は真ん中にスタッフ動線、両側に診療室が並ぶ間取りを考えていました。でも伊藤さんからこの動線では敷地面積がより必要になることをご指摘いただき、診察室を中央にしてスタッフ導線と患者動線を分ける間取りに変更しました。また、手術室は別に設ける予定だったのですが、空間が広く使えるということで、内診室を広げて手術もできるようにしました。内診の際、広い空間の方がリラックスしやすいので、結果正解だったと感じています。


地域に開かれた
ひなたのようなクリニック
待合室を地域とつながる場所に
⚫︎待合室を教室やイベントができる交流の場にしたいとのご提案も、斬新でした。
子宮頸がん予防のためのHPVワクチン接種や、乳がん検診の大切さなどはなるべく早いうちに知っておいてもらいたい。だからこそ、啓発のための場所づくりが必要だと思っていました。待合室は気軽に人が集え、多様な使い方ができるようお願いした結果、一面ガラス張りで、自然光が入り込む開放的な雰囲気に。また、大通りに面しているため塀を立て、植栽をしてプライバシーにも配慮してもらいました。椅子や什器なども木製の家具で揃えてもらい、統一感のある空間になりました。患者さんから「待ち時間が苦じゃない」と言ってもらえた時は嬉しかったですね。畳コーナーやおむつ台も設けたので、子どもさん連れの患者さんも気軽に来ていただいています。今後は「プレママクラス」や「パパママカフェ」の開催も予定しています。

産前産後ケア室と坪庭が生む、心の余白
⚫︎産前産後ケア室を設けたのも、このクリニックの特色のひとつですね。
私自身、産後は心身ともに大変な思いをしたため、駆け込み寺のようにお母さんが誰かに頼ることができる場所を作りたいと思ったんです。託児所ではなく、母子ともにゆっくりと滞在できる場所ですね。こちらも当初は2部屋設ける予定だったのですが、hplusさんから「休む」というコンセプトならば1室を広々と使ってもらう方が良いのでは、とご提案いただき、変更しました。自宅にいるような雰囲気だけれど少しだけ上質で非日常な空間に、と伝えたところ、坪庭も設計していただきました。空間に奥行きが出て、ぐっとくつろげる雰囲気になりました。坪庭には当院のシンボルであるミモザを植えてもらったので、花を咲かせるのが楽しみです。

ダークグリーンが象徴する、落ち着きと安心感
⚫︎外壁の色をダークグリーンにしたいとご提案されたのも、とても印象的でした。結果、とても素敵な雰囲気になりましたね。
最初は白やベージュの壁色をご提案いただいていたんですが、ある時、ダークグリーンの壁色のお家を目にして「これだ!」とひらめいてしまったんです(笑)。もともと緑が好きだったこともあり、どうしてもこの色にしたいとご相談したところ、伊藤さんがすぐに対応してくださり、雨樋なども同じ色のもので揃えていただきました。急な予定変更でしたが、柔軟に対応いただけて、とても感謝しています。

「ひなた」のように、前を向いて生きていける場所に
⚫︎開院後、改めて感じることや、周りからの声はいかがですか?
銀行の方が集金に来られる度に「ここはスタッフの方が皆にこにこして楽しそうに働いておられますね」と声を掛けてくれるのが嬉しいですね。スタッフが笑顔だと、患者さんも安心できますから。作業効率の良い間取りや、木の温かみのあるインテリアなどが、リラックスできる空間を生み出しているのだと感じます。私自身も、心地よさを感じながら日々診察しています。福井は働く女性が多く、家事や育児を優先して、自分のことを後回しにしがちな方が多い。自分にしっかり目を向け、未来に向かって前向きに生きていけるようサポートができる「ひなた」のような場所を目指していきたいと思っています。
このたびは、取材のご協力をありがとうございました。
